ミサイルじゃない、保険が止めた ── 原油が決める日経平均の行方
トランプ大統領の「作戦は順調だ」という発言も、米軍が制空権を掌握したという報道も、イランが停戦交渉を打診したというニュースも ── 日経平均にはほとんど効いていません。
この1週間、株価を本当に動かしていたのは、WTI原油の値段でした。そして原油は、構造的にまだ上がります。
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日経平均 × WTI原油 ── 完全な逆相関
2月27日を起点にしたデータを見てください。原油が上がった日は日経が下がり、原油が下がった日は日経が上がっています。例外はひとつもありません。
| 日付 | 日経 前日比 | WTI 変動 | 逆相関 |
|——|———–|———|——–|
| 3/2(月) | −793円 | +$8.8 | ✓ |
| 3/3(火) | −1,778円 | +$0.6 | ✓ |
| 3/4(水) | −2,033円 | +$3.3 | ✓ |
| 3/5(木) | +1,032円 | −$4.1 | ✓ |
4営業日すべてで逆相関が成立しています。
戦争の「良いニュース」は株価に効いていません
| 日付 | 政治的ニュース | WTI | 日経 |
|——|————–|—–|——|
| 3/2 | 「攻撃は織り込み済み」 | $74(+13.5%) | −793円 |
| 3/3 | トランプ「作戦は順調」 | $74.8 高止まり | −1,778円 |
| 3/4 | 米軍「制空権を2日で掌握」 | $78(+4.4%) | −2,033円 |
| 3/5 | イラン停戦交渉を打診 | $74(−5.2%) | +1,032円 |
| 3/6 | イラン外相「交渉求めず」 | $90(+21.6%) | 週明け注目 |
3月5日の反発も注意が必要です。停戦交渉の打診が「直接的に」株を押し上げたように見えますが、本質は違います。その報道によって原油が$78→$74に急落したから日経が上がったのです。翌6日、イラン外相が交渉を否定すると、原油は一気に$90を突破しました。
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なぜ原油はまだ上がるのか ── 5つの構造的理由

理由① 海峡を閉じたのはミサイルではなく「保険」です
ホルムズ海峡は、物理的な封鎖によって止まったわけではありません。止めたのは、保険会社です。
まず起きたのは、3月2日のイラン革命防衛隊(IRGC)司令官による正式な声明でした。「海峡は閉鎖されている。通過を試みるいかなる船舶も炎上させる」── このたった一言が、すべての歯車を動かしました。
> 「P&Iクラブ国際グループ12社のうち7社が、ペルシャ湾・オマーン湾・イラン領海における戦争リスク保険の72時間キャンセル通知を提出した。海峡を閉じたのは、ある主権国家が宣言したからでも、米海軍が封鎖したからでもない。7つの保険会社が書類を提出したからだ。」
> ── “The Invisible Siege: How Insurance Markets, Not Missiles, Closed the Strait of Hormuz” (Substack)
Lloyd’s Listの報道によれば、Gard、Skuld、NorthStandard、London P&I Club、American Clubなど主要クラブが一斉にキャンセル通知を発出しました。この効力が発生するのは3月5日の深夜です。期限後、船主は大幅に値上がりした保険料で再交渉しなければなりません。
> 「保険カバーなしでは船は傭船できず、貨物の融資もできません。水路が物理的に開いていても、航海は事実上不可能になります。」
> ── Windward Maritime AI “Strait of Hormuz Shipping Falls After Insurance Pullback”
結果はどうなったか。Lloyd’s List Intelligenceの衛星追跡データによれば、3月1日のホルムズ海峡通過量は前週比81%減。1月平均の1,030万DWTからわずか100万DWT強に激減しました。原油タンカーの通過はたった1隻、LNGタンカーはゼロです。150隻以上のタンカーが海峡外で滞留しています。
> 「イランに必要だったのはドローン攻撃を数発、海峡の近くで行うことだけでした。それだけで、保険会社と海運会社が『危険だ』と判断し、あのS字カーブの狭い水路を誰も通らなくなったのです。これは本質的に、保険が引き起こした閉鎖(insurance-driven shutdown)です。」
> ── Helima Croft, RBC Capital Markets コモディティ戦略グローバルヘッド(NPR報道)
IRGCの「通過する者は攻撃する」という声明と、実際に少なくとも10隻の船舶が被弾した事実が組み合わさり、ロンドンの保険市場が「引き受けられない」と判断した時点で、世界の石油輸送の20%が止まりました。戦争が終わるまで動けないのではなく、保険が付くまで動けないのです。仮に明日停戦が成立しても、保険の再引き受けには数日から数週間かかります。
出典: Lloyd’s List, Al Jazeera, Windward Maritime AI, NPR/RBC Capital Markets
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理由② 代替ルートでは全量をカバーできません ── 「ショックアブソーバーであって代替ではない」
「サウジにはパイプラインがあるから大丈夫では?」という楽観論があります。しかし数字を見れば、それが幻想であることがわかります。
> 「ホルムズ海峡を迂回できるパイプラインを持つのはサウジアラビアとUAEだけであり、利用可能な迂回能力は推定350万〜550万バレル/日にとどまります。」
> ── IEA “Energy security implications due to Middle East crisis”(SAFETY4SEA掲載)
ホルムズ海峡の通常通過量は日量2,000万バレルです。代替ルートでカバーできるのは最大でもその4分の1程度に過ぎません。
> 「迂回パイプラインがフル稼働しても、カバーできるのは650万バレル/日程度です。1,000万バレル/日以上がむき出しのままです。これらの代替手段はショックアブソーバーであって、代替(substitute)ではありません。」
> ── Justin Dargin, 中東グローバル評議会 上席研究員(AA通信報道)
さらにサウジの東西パイプライン出口であるヤンブ港は、主要輸出港として設計されていません。
> 「ヤンブは元来、サウジの主要輸出ハブとして設計されていません。インフラやタンカー積載能力の制約により、実際のスループットは理論上の容量を大幅に下回る可能性があります。」
> ── Baird Langenbrunner, Global Energy Monitor リサーチアナリスト(Euronews報道)
Qamar EnergyのRobin Mills CEOも、紅海ルートに切り替えてもフーシ派の攻撃リスクが残ることを指摘しています。「ヤンブからアジアへの輸送はバブ・エル・マンデブ海峡を通過しなければならず、一部の海運会社はそのルートにも懸念を抱いている」(AA通信報道)とのことです。
そして最も深刻なのがLNG(液化天然ガス)です。IEAによれば、カタールとUAEのLNG輸出の93〜96%がホルムズ海峡を経由しており、LNGには代替パイプラインが存在しません。世界のLNG貿易の約5分の1が、文字通り止まっている状態です。
出典: IEA (SAFETY4SEA掲載), AA通信, Euronews, The National
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理由③ イラクの生産が半減 ── 世界第2位の油田が「タンク満杯」で全停止
ホルムズ海峡の機能停止は、イラン以外の産油国にも連鎖的な打撃を与えています。中でも最も深刻なのがイラクです。
> 「イラクは原油生産を日量約150万バレル削減しており、輸出できないためにストレージが枯渇し、数日以内に300万バレル/日超にまで削減が拡大する可能性があります。ルメイラ油田で70万、ウェストクルナ2で46万、マイサン油田で32.5万バレル/日の減産が行われています。」
> ── Reuters報道(Marine Link掲載)、イラク石油当局者2名の匿名証言
ルメイラ油田は世界第2位の規模を持つ巨大油田です。Iran Internationalの報道によれば、「すべての井戸の生産が完全に停止した。輸出が途絶したことで貯蔵レベルが上昇し、タンクが満杯になったため」とされています。
> 「イラクは、ホルムズ海峡を通じて原油を輸出できないため、最大の油田での生産を停止せざるを得なくなっています。出口のない原油を、どこにも置けないのです。」
> ── NPR “How traffic dried up in the Strait of Hormuz since the Iran war began”
300万バレル/日の削減が現実化すれば、それはイラクの生産能力の3分の2が消えることを意味します。これは施設が攻撃されたという話ではなく、出荷できないから生産を止めるしかないという物流の問題です。海峡が止まっている限り、この状況は悪化の一途をたどります。
出典: Reuters (Marine Link掲載), Iran International, Bloomberg, NPR
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理由④ 米国は「必要な限り続ける」 ── 短期終結シナリオの消滅
攻撃開始当初、市場には「数日で終わるだろう」という楽観論がありました。しかし米国の高官発言はそれを明確に否定しています。
> 「我々には目標がある。その目標を達成するために必要な限り、これを続ける(We will do this as long as it takes to achieve those objectives)。」
> ── マルコ・ルビオ米国務長官(CNBC報道、3月2日)
> 「大きな波はまだ来ていない。大きなのがもうすぐ来る(The big wave hasn’t even happened. The big one is coming soon)。」
> ── ドナルド・トランプ米大統領(CNN報道、3月2日)
当初の作戦計画は4〜5週間とされていましたが、トランプ大統領はそれを大幅に超える可能性を示唆しています。一方のイラン側も、3月5日の停戦交渉打診の報道を翌6日にアラグチ外相が「交渉は求めていない。残された言語は防衛のみだ」と明確に否定しました。
双方ともに短期終結を否定している以上、原油価格に上乗せされている地政学リスクプレミアムは当面剥落しないと見るのが合理的です。
出典: CNBC, CNN, Trading Economics
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理由⑤ カタールが「150ドル」を警告 ── 世界第2位のLNG生産国がフォースマジュール宣言
3月6日にWTIが90ドルを突破した直接のトリガーは、カタールのエネルギー大臣の発言でした。
> 「この戦争が数週間続けば、世界中のGDP成長率に影響が出ます。エネルギー価格は上がり、一部の製品は不足し、供給できない工場が連鎖的に発生するでしょう。まだフォースマジュールを宣言していない輸出国も、数日以内に全社が宣言することになると見ています。」
> ── サード・アルカービ カタール・エネルギー相(Financial Times報道)
> 「タンカーがホルムズ海峡を通過できない状態が2〜3週間続けば、原油価格は150ドルに達する可能性があります。ガス価格は100万BTUあたり40ドル ── 戦争前の約4倍です。」
> ── サード・アルカービ カタール・エネルギー相(Financial Times報道)
カタールはイランのドローン攻撃でラス・ラファン・プラント(LNG施設)が被害を受け、フォースマジュールの発動に追い込まれました。カービ大臣によれば、仮に戦争が今すぐ終わっても正常な出荷に戻るまで「数週間から数ヶ月」かかるとのことです。
その理由は物流です。カタールのLNGタンカー128隻のうち手元にあるのはわずか6〜7隻。「1隻の積み込みに1〜2日、同時に処理できるのは6〜7隻」── 128隻を回収して順次積載するだけで膨大な時間がかかります。さらにカービ大臣は市場からの調達も不可能だと断言しています。「仮に7,700万トンを買って届けたいとしても、そんな量が市場に転がっているはずがない」。供給が途絶した分を他から埋め合わせる手段は、現時点では存在しません。
出典: Financial Times(Türkiye Today, EnergyNow, CBS News転載)
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主要アナリストの原油価格見通し
封鎖が長期化するシナリオでは、複数の大手金融機関が100ドル突破を予測しています。カタール・エネルギー相に至っては150ドルという数字を出しています。
| 機関・人物 | シナリオ | 価格予測 |
|———–|———|———|
| カタール・エネルギー相 | 2〜3週間封鎖継続 | $150 |
| ゴールドマン・サックス | GCC生産停止 | $100超 |
| JPモルガン | 3〜4週間制限 | $100超 |
| TD Securities | 来週もタンカー不通 | $100超(来週中) |
| シティ | 1週間継続 | $80〜90 |
| 野村證券 | 封鎖長期化 | 一段高 |
※ゴールドマンはリスクプレミアムを$18と推定。シティは緊張緩和なら$70まで低下と予想。TD SecuritiesはCBS News報道。
⚠ 3月6日、WTIは90ドルを突破しました。週間上昇率は2022年以来最大です。CBS Newsによれば、ホルムズ海峡の通過船舶数は通常の138隻/日から「一桁台」にまで激減しています。

原油価格シナリオ別 日経下値メド
今週のデータが示す完全逆相関を前提に、原油水準別の日経想定レンジを整理しました。
| WTI水準 | シナリオ | 日経想定レンジ |
|——–|———|————-|
| $70〜75 | 停戦合意・海峡正常化 | 57,000〜59,000円 |
| $80〜90 | 封鎖継続・膠着 | 52,000〜55,000円 |
| $100超 | GCC生産停止・長期化 | 49,000〜52,000円 |
| $150 | カタール予測(2-3週間封鎖) | さらなる下落リスク |
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結論
株価の方向を決めるのは「戦争がどうなるか」ではなく、「原油がいくらになるか」です。
原油の方向を決めるのは「戦闘の勝ち負け」ではなく、「ホルムズ海峡をタンカーが通れるかどうか」です。
タンカーが通れるかどうかを決めるのは「軍事的に安全か」ではなく、「ロンドンの保険会社が引き受けるか」です。
日経平均のポジションを考える際は、中東情勢の政治ニュースではなく、WTI原油のリアルタイム価格を最優先で監視すべきです。
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本記事はAIによる市場分析であり、投資助言を目的としたものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
出典: Lloyd’s List, IEA, Reuters, Bloomberg, NPR, CNBC, CNN, Financial Times, Al Jazeera, Windward Maritime AI, AA通信, Euronews, The National, 野村證券, Goldman Sachs, Citi, JPMorgan, TD Securities, CBS News, 中東調査会, Iran International



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