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日銀のETF買い入れとは?売却はいつから・どのくらいのペースかを解説

世界の中央銀行で日銀だけが行った「株式市場への直接介入」——それがETF買い入れです。ETF (上場投資信託) とは、日経平均やTOPIXといった株価指数に連動するよう設計され、株式と同じように取引所で売買できる投資信託のこと。日銀はこのETFを大量に買い続けることで、事実上「日本株そのもの」を買い支えてきました。

買い入れはすでに終了し、いまは売却が始まる段階に入っています。この記事では、日銀のETF買い入れとは何だったのか、なぜ主要国で日銀だけがやったのか、保有規模と含み益はどれほどか、そして「売却はいつから・どのくらいのペースか」を、投資家が知っておくべき順番で整理します。

スライド②:「日銀が株を売る」=暴落の始まり? ― 数字で冷静に「出口」の姿を見る
スライド②:「日銀が株を売る」=暴落の始まり? ― 数字で冷静に「出口」の姿を見る
スライド③:世界唯一の「劇薬」 ― 中央銀行が直接「株」を買う、主要国で日銀だけの異例の政策
スライド③:世界唯一の「劇薬」 ― 中央銀行が直接「株」を買う、主要国で日銀だけの異例の政策

① 日銀のETF買い入れとは — 異例の金融政策

日銀のETF買い入れは、2010年の包括的金融緩和で始まり、2013年の量的・質的緩和 (いわゆるアベノミクスの金融政策) で本格化した政策です。中央銀行の伝統的な仕事は「金利の上げ下げ」と「国債の売買」であり、株式という値動きの激しいリスク資産を中央銀行自身が買うのは、主要国では日銀だけの異例の措置でした。米国のFRBも欧州のECBも、金融危機の際に社債などを買った例はありますが、株式 (ETF) を恒常的な政策手段として買い続けた中央銀行は日銀のほかにありません。

狙いは「リスクプレミアムの縮小」です。リスクプレミアムとは、投資家が株式のような値動きの大きい資産を持つ見返りとして要求する上乗せリターンのこと。デフレと株安が続いた日本では、投資家が株を怖がりすぎてこの上乗せ要求が過大になり、株価が本来の企業価値より安く放置されている——日銀はそう考え、自ら買い手になることで「怖がりすぎ」を和らげ、投資と消費のマインドを支えようとしたのです。

個別株を選んで買うと特定企業への肩入れになるため、市場全体を丸ごと買える指数連動型のETFが選ばれました。

なお「海外にも株を持つ中央銀行はあるのでは」と思われるかもしれません。たしかにスイス国立銀行のように外貨準備の運用先として外国株式を保有する中央銀行は存在します。しかしそれは資産運用としての保有であり、日銀のように「自国の株式市場を支えること自体を目的に、金融政策の手段として自国株ETFを買い続けた」例は他にありません。

ここが「異例中の異例」と呼ばれるゆえんです。

スライド④:膨張し続けた買い入れの歴史 (2010〜2024) ― 2010年開始→2013年アベノミクス本格化→2020年12兆円→2021年縮小
スライド④:膨張し続けた買い入れの歴史 (2010〜2024) ― 2010年開始→2013年アベノミクス本格化→2020年12兆円→2021年縮小

② 買い入れ拡大の歴史 — 2010年から2024年までの流れ

買い入れの歩みをたどると、規模がどんどん膨らんでいったことがわかります。2010年の開始当初は市場の下支えを目的とした小規模なものでしたが、2013年の量的・質的緩和で「デフレ脱却の主砲」の一角に格上げされ、その後も段階的に年間の買い入れ枠が拡大されました。2016年には年間約6兆円ペースへ、そしてコロナショックで世界の株式市場が急落した2020年には、年間買い入れ上限が12兆円まで引き上げられました。

相場が大きく下げた日の午後に日銀の買いが入る、というパターンは市場参加者の共通認識になり、「日銀プレー」という言葉さえ生まれました。

一方で副作用への批判も強まりました。第一に、価格形成への介入です。業績の悪い企業の株まで指数ごと買い支えられるため、「市場の選別機能」が働きにくくなります。

第二に、日銀が間接的に多くの企業の大株主になることで、株主によるガバナンス (経営の監視) が空洞化する懸念。第三に、株価が下がれば日銀自身の財務が傷むという、中央銀行としての健全性の問題です。こうした批判を受け、2021年3月以降は「原則買わず、必要なときだけ買う」方式に縮小され、買い入れ対象も市場全体をより広くカバーするTOPIX連動型のみに絞られました。

スライド⑤:2024年3月、14年続いた「異常事態」が幕を下ろす ― 買う側から持っている側へ、下値の心理的支えは消滅
スライド⑤:2024年3月、14年続いた「異常事態」が幕を下ろす ― 買う側から持っている側へ、下値の心理的支えは消滅

③ 買い入れの終了 — 2024年3月

そして2024年3月、日銀はマイナス金利解除と同時に、ETFの新規買い入れの終了を決定しました。2010年から14年間続いた「中央銀行が株を買う」という世界でも例のない政策は、賃金と物価の好循環が見えてきたという判断のもと、ここで幕を下ろしたのです。以降、日銀は「買う側」から「持っている側」へと立場が変わり、市場の関心は次の論点——巨額の保有分をどう処分するのか——に移りました。

この「買い入れ終了」が持つ意味は、単なる政策の一区切りではありません。かつての日本株には「大きく下がれば日銀が買ってくれる」という暗黙の安心感 (下値の心理的な支え) がありました。買い入れ終了後の相場には、この支えが存在しません。

急落局面での市場の振る舞いが構造的に変わった、という点は長期投資家こそ意識しておくべき変化です。

スライド⑥:「日本最大の株主」が抱える巨大な遺産 ― 簿価約37兆円/時価70兆円規模、数十兆円の含み益
スライド⑥:「日本最大の株主」が抱える巨大な遺産 ― 簿価約37兆円/時価70兆円規模、数十兆円の含み益

④ 保有規模と含み益 — 「日本最大の株主」の実像

  • 保有規模:簿価 (買った値段ベース) で約37兆円 (2024年時点の公表ベース)。時価は株高により70兆円規模に達し、含み益は数十兆円と報じられた
  • 市場での存在感:東証全体の時価総額の数%に相当し、日銀は間接的に多くの企業の大株主になっている
  • 収益への寄与:保有ETFからは分配金収入が発生しており、日銀の収益源の一つになっている

簿価と時価の違いは押さえておきましょう。簿価は「買ったときの値段の合計」、時価は「いま売ったらいくらか」。日銀は株価が安い時期に買い続けたため、その後の株高で時価が簿価を大きく上回り、巨額の含み益が生まれました。

ただし数字は公表・報道時点のものであり、株価水準により時価・含み益は大きく変動する点にご注意ください。含み益が大きいという事実は、裏を返せば「日銀の財務が株価に左右される構造」がそれだけ大きくなったということでもあります。

スライド⑦:売却は「2025年9月」から、100年の旅へ ― 年間約3,300億円 (簿価)、完了目安 約100年規模
スライド⑦:売却は「2025年9月」から、100年の旅へ ― 年間約3,300億円 (簿価)、完了目安 約100年規模

⑤ 売却はいつから? — 決定済みの方針

日銀は2025年9月の金融政策決定会合で、保有ETFの市場売却を開始する方針を決定しました。ペースは簿価ベースで年間約3,300億円というきわめてゆっくりしたもので、単純計算では完了までに100年規模かかる規模感です。市場への影響を極力抑える「超スローペース」の設計だと言えます。

なぜこれほど遅いのか。理由は保有規模そのものにあります。仮に日銀が急いで売れば、市場の需給を自ら壊し、売却価格も下がって日銀自身が損をします。

国民の資産とも言える含み益を毀損せず、市場も壊さない——この2つを両立させるには、時間を味方につけるしかありません。過去に政府系機関が保有株式を処分した際も、市場に配慮した長期分割売却が採られており、今回の設計はその延長線上にあります。

このため「日銀売却=暴落」と短絡するのは適切ではありません。年間3,300億円は東証の1日の売買代金 (数兆円規模) と比べてもごく小さく、日々の需給に与える影響は限定的です。

スライド⑧:暴落は起きる?いいえ、これは「超スローペース」 ― 70兆円のETFをスプーンで汲み出すようなペース
スライド⑧:暴落は起きる?いいえ、これは「超スローペース」 ― 70兆円のETFをスプーンで汲み出すようなペース

ニッケイちゃんメモ:「日銀が売る」と聞くと怖く感じるけど、規模を数字で見るのが大事。プールの水をスプーンで汲み出すようなペースなんだよ!ニュースの見出しじゃなくて「年間いくら・1日の売買代金と比べてどうか」で考えるクセをつけよう。

スライド⑨:数字が証明する「需給への極小インパクト」 ― 東証の1日の売買代金(数兆円) vs 日銀の年間売却額(約3,300億円)
スライド⑨:数字が証明する「需給への極小インパクト」 ― 東証の1日の売買代金(数兆円) vs 日銀の年間売却額(約3,300億円)

売却の実務面も確認しておきましょう。売却は取引所を通じた市場売却で、特定の相手にまとめて譲渡する方式ではありません。また日銀は売却方針の決定にあたり、市場の状況に応じて柔軟に対応する余地を残しています。

つまり「毎日機械的に一定額を売り続ける」というより、「市場を壊さない範囲で淡々と減らしていく」枠組みだと理解するのが実態に近いと言えます。

スライド⑩:ニッケイちゃんの「よくある誤解」ファクトチェック ― 売却=暴落/日銀なしで上がらない/完全な失敗/含み益で安泰、いずれも×
スライド⑩:ニッケイちゃんの「よくある誤解」ファクトチェック ― 売却=暴落/日銀なしで上がらない/完全な失敗/含み益で安泰、いずれも×

⑥ よくある誤解を整理する

  • 誤解1「日銀が売り始めたら暴落する」:現行ペースは市場規模に対してごく小さく、日々の需給への影響は限定的。怖いのは売却そのものではなく、将来「ペースの大幅加速」が突然決まるケース
  • 誤解2「日銀が買わなくなったから日本株はもう上がらない」:実際には買い入れ終了後の2024年に日経平均は34年ぶりの史上最高値更新を果たした。企業業績とガバナンス改革という別のエンジンが動いている
  • 誤解3「ETF買い入れは失敗だった」:評価は今も分かれる。株価下支えと投資マインド改善に寄与した一方、価格形成やガバナンスへの副作用も生んだ。単純な成功/失敗の二分法では語れない
  • 誤解4「含み益があるから日銀は安泰」:含み益は株価次第で消える。株安局面では日銀財務への懸念が再燃しうる点は頭の片隅に置いておきたい
スライド⑪:投資家のマインドセット ― パラダイムシフト比較 (日銀マネー→企業業績、下値安心→消失、下支え→金融正常化推進役)
スライド⑪:投資家のマインドセット ― パラダイムシフト比較 (日銀マネー→企業業績、下値安心→消失、下支え→金融正常化推進役)

⑦ 投資家が本当に見ておくべきポイント

  1. 売却ペースの変更を追う:将来、売却の加速や方式変更が決まれば需給への影響度が変わる。金融政策決定会合の発表を経済指標カレンダーで定点観測する
  2. 金利政策とセットで見る:ETF売却は利上げと同じ「金融正常化」という大きな流れの一部。市場がどこまで織り込んでいるかが株価反応を決める
  3. 「買い入れがない相場」を前提に置く:かつての「下がれば日銀が買う」という安心感はすでに存在しない。急落時の下支え構造が変わったことは暴落局面で特に意識すべき変化
  4. 見出しではなく数字で判断する:「日銀売却開始」という見出しに反射的に動かず、年間ペース・市場規模との比率という数字に立ち返る
スライド⑫:私たちはこれから「何」を監視すべきか? ― ①数字を見る/②決定会合でのペース変更/③金利政策とセット
スライド⑫:私たちはこれから「何」を監視すべきか? ― ①数字を見る/②決定会合でのペース変更/③金利政策とセット

2026年のいまは、日銀が利上げを含む金融正常化を段階的に進め、日経平均が史上最高値圏で推移するという、ETF買い入れ時代とはまったく違う風景の中にあります。「中央銀行が買い支える相場」から「企業の実力で評価される相場」への移行が進むほど、ETF売却のニュースは相場全体のテーマの一部として静かに消化されていく可能性があります。逆に言えば、売却ペースの変更が議題に上がる局面では、金融正常化全体のスピード感を測るシグナルとして注目される場面もあるでしょう。

ニッケイちゃんメモ:ETF買い入れの歴史は「非常時の薬」の物語だと思ってる。効いたけど副作用もあった。いまはゆっくり薬を抜いている段階。

急にやめたら体に悪いから、100年がかりでもいいんだよ!

まとめ

  • 日銀のETF買い入れは2010年開始・2024年3月終了。主要国唯一の株式買い入れ政策で、リスクプレミアム縮小が狙いだった
  • 2013年に本格化、2020年には年間上限12兆円まで拡大。2021年以降は縮小に転じた
  • 保有は簿価約37兆円、時価は株高で大幅な含み益 (数字は公表・報道時点)
  • 売却は2025年9月に決定済み。簿価ベース年約3,300億円の超スローペースで、単純計算100年規模
  • 「売却=暴落」ではない。見るべきはペース変更の有無と、金融正常化全体の流れ
スライド⑬:outro ― 補助輪は外れた。新しい「自力相場」を楽しもう
スライド⑬:outro ― 補助輪は外れた。新しい「自力相場」を楽しもう

よくある質問

Q. 日銀のETF売却で株価は下がりますか?

現行ペース (簿価で年約3,300億円) は市場規模に対してごく小さく、日々の株価への直接影響は限定的とみられます。東証では1日に数兆円規模の売買が行われており、年間の売却額はその一部にすぎません。むしろ将来ペースが変更されるかどうかが注目点です。

Q. なぜ日銀はETFを一気に売らないのですか?

保有規模が巨大なため、急いで売れば市場の需給を壊し、日銀自身の売却価格も下がるからです。含み益 (実質的に国民の資産) を毀損せず、市場への影響も抑えながら長期で処分する設計が選ばれました。

Q. 日銀のETF買い入れは何のためだったのですか?

デフレ脱却に向けた金融緩和の一環で、株式市場のリスクプレミアムを縮小させ、投資と消費のマインドを支えることが目的とされました。効果と副作用 (市場の価格形成やガバナンスへの介入) については今も評価が分かれています。

Q. 日銀が保有しているのはどの銘柄の株ですか?

日銀が保有するのは個別株ではなく、TOPIXや日経平均などの株価指数に連動するETFです。ETFを通じて間接的に多くの上場企業の株式を保有している形になり、結果として日銀は多くの企業の実質的な大株主になっています。

Q. 売却されたETFは誰が買うのですか?

市場での売却なので、買い手は通常の市場参加者 (国内外の機関投資家・個人投資家など) です。売却ペースが十分小さければ、日々の売買の中に自然に吸収されると考えられます。将来、市場外での処分方式などが検討される可能性もありますが、現時点で決まっているのは市場売却です。

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終判断はご自身の責任でお願いいたします。数値は公表・報道時点のものであり、最新の情報は日銀の公式発表をご確認ください。

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