
【結論】「ドルで見れば日本はデフレだ」という主張が SNS や論壇で広がっていますが、データで検証すると結論は逆です。日本の物価は上昇しており(2025年 CPI +3.2%)、日銀は利上げを続けています。デフレどころか、金利がインフレに追いついていない「実質マイナス金利」こそが円安の正体です。
本記事では、この主張を 4 つの論点に分解し、実測データで一つずつ検証します。

よく見る主張の中身
検証する主張は、おおむね次のような内容です。
- 株価は史上最高値というが、円安がひどいのでドルで見ると数年間上がっていない
- 日本株の投資家の半分は外国人で、みなドルで見ている
- IMF の購買力平価では 1 ドル 95 円が本来の価値。160 円では給料も資産もドルで半分になった
- だから「ドルで見ると日本はデフレ」だ

一つずつ、数字で確かめます。
検証 1: 「ドル建てで株価は上がっていない」— 2024年までは事実、いまは違う
日経平均をその時々のドル円レートで割った「ドル建て日経平均」を計算すると、次のようになります。
| 時点 | 日経平均(円) | ドル円 | ドル建て日経 | 2020年末比(ドル建て) |
|---|---|---|---|---|
| 2020年12月 | 27,444 | 103.1 | 266 | — |
| 2022年12月 | 26,094 | 131.1 | 199 | -25% |
| 2024年12月 | 39,895 | 157.0 | 254 | -5% |
| 2026年7月 | 68,558 | 161.7 | 424 | +59% |

2020年末から2024年末までの 4 年間は、円建て +45% に対しドル建て -5%。この期間に限れば主張は正しいのです。しかし 2025 年以降は様相が一変しました。
2024年末からの上昇だけでドル建て +67%。この間ドル円は 157 円から 162 円へとほとんど動いておらず、直近の株高は円安の水増しではなく、ドルで見ても本物の上昇です。「ドル建てでは上がっていない」は、1 年半前に賞味期限が切れたデータで語られています。
なお「投資家の半分は外国人」について。東証の株式分布状況調査では外国人の保有比率は 32.4%(過去最高)、一方で売買代金では約 3 分の 2 を占め、2011 年以降 15 年間ずっと過半を握り続けています。「この市場の値付けはドル目線の投資家が行っている」という指摘自体は、むしろ控えめなくらい正しいと言えます。

検証 2: 「資産はドルで半分になった」— 基準点の切り取りに注意
円建てで金額が変わらない資産(現金・預金)のドル価値は、いつと比べるかで大きく変わります。
| 基準年(当時のドル円) | 現在(161.7円)でのドル価値 |
|---|---|
| 2012年(80.1円) | -50.5% |
| 2015年(121.0円) | -25.2% |
| 2020年(106.2円) | -34.3% |

「半分」になるのは 2012 年の超円高(80 円)を基準にした場合だけです。そして当時の 80 円は、購買力平価より 3 割も円高という歴史的な異常値でした。異常な円高の頂点から測った最大値を「資産が半分になった」と一般化するのは、統計の切り取りです。
中立的な基準では 25〜34% の目減りが実像です。
さらに重要なのは、この計算が当てはまるのは円のまま置かれた現預金だけだという点です。株式で持っていた場合、ドル建てでも 2012 年比 +268%、2020 年比 +98% と、資産は半減どころか倍増しています。この主張が本当に告発しているのは円安ではなく、「家計金融資産の半分以上を現預金で寝かせてきたこと」なのです。

検証 3: 「IMF は 95 円が適正と言っている」— 統計の目的外使用
IMF の購買力平価(PPP)は確かに 1 ドル ≈ 94〜95 円を示しています(世界銀行 2024 年値 94.5 円)。ただしこの数字の出自は、世界 170 か国以上で数千品目の価格を実地調査する国際比較プログラム(ICP)であり、目的は各国の生活水準を共通単位で比べることです。為替の適正水準を判定する道具ではありません。
IMF 自身、為替の評価には EBA という別の枠組みを使っており、そこでの円の乖離推定は PPP 乖離よりはるかに小さく出ます。

また、PPP の乖離は日本だけの現象ではありません。同じ計算をすると、ユーロも 2〜3 割、新興国通貨は 5〜9 割「割安」に出ます(物価水準が低い国は必ず割安に見える構造のため)。逆にスイスフランは PPP より 2 割「割高」です。
「PPP と乖離している = 異常」なら世界中の通貨が異常ということになってしまいます。ただし、日本の乖離(約 -42%)が先進国で突出して大きく、新興国の水準帯に先進国で唯一入り込んでいることは事実です。「日本は安くなりすぎた」という直感自体は、正しいのです。

検証 4: では「ドルで見るとデフレ」なのか — 定義から言って逆です
デフレとは、国内の物価が持続的に下落することです。現実の日本は、消費者物価が年 +3.2%(2025 年)で上昇し、日銀はそれを抑えるために約 30 年ぶりの利上げを続けています。デフレの正反対の状態です。
ドル換算で目減りしているのは物価ではなく円の対外価値であり、それは「通貨安」と呼ぶべき現象です。

そして、なぜ通貨安が止まらないのか。ここに本当の病名があります。
| 名目金利 | インフレ率 | 実質金利 | |
|---|---|---|---|
| 米国 | 3.62% | 2.95% | +0.7% |
| スイス | 0% | 0.6% | ほぼ 0% |
| 日本 | 約1% | 3.17% | -2.2% |

円を持っていると、インフレで購買力が毎年 2% 以上削られる — これが円が売られる根本の理由であり、本記事のタイトルの意味です。スイスは金利ゼロでも通貨が世界最強ですが、それはインフレがほぼゼロで、フランを持っていても価値が削られないからです。通貨の強弱を決めるのは名目金利の高さではなく、「金利がインフレに勝っているか」(実質金利)なのです。

つまり「ドルで見るとデフレ」の実態は、こう言い換えるべきです — 「日本は金利で抑え込まれていない強めのインフレの国であり、抑え込まれていない分が通貨安として噴き出している」。デフレどころか、その逆です。

大きな方向性 — この先なにを見ればよいか
この構図が終わるのは、日本の実質金利がマイナスを脱するときです。道は 2 つあります。①日銀がさらに利上げする(現行のインフレ率なら名目 3% 前後が目安)、②インフレ率自体が下がって金利と出会う。
いずれにせよ、「政策金利 − インフレ率」というたった 1 つの数字が、円安が続くか終わるかの羅針盤になります。ゼロ金利という 30 年の時代が終わったいま、この数字がゼロへ近づいていく過程こそが「金利正常化」の実像であり、当面は円安容認の下でのリスクオン(名目の株高)が続きやすい、というのが本サイトの見立てです。

本記事はシリーズ「円安の正体 — 実質金利で読む日本」の第 1 回です。数値の出所: 日経平均・ドル円は市場実測(月次終値)、CPI・PPP は世界銀行、外国人比率は東証株式分布状況調査・投資部門別売買状況、スイス政策金利は SNB 公表値。図版は本記事のデータから作成。
本記事は AI による情報提供です。投資助言ではありません。






